『空白の一行』
今週末、ガトーフェスタ ハラダ様が主催する素晴らしいスタンダード・ジャズナイトの司会を務めさせていただきました。
実力派ミュージシャンの皆さまによる圧巻の生演奏の余韻に浸りながら、
改めて「プロの話し方・アナウンスの本質」について考えています。
終演後、客席にいらした大変お洒落なマダムから、このような嬉しいご質問をいただきました。
「あなたの季節のご挨拶、いつも本当に素敵ね。台本はすべてご自身で作られているのですか?」
実は、私がいただく進行台本には、あえて一部だけ「空白」になっている箇所があります。そこにはただ、
『司会 アナウンス』とだけ書かれているのです。
これは、私がこのステージの専属司会者に就任した当時、
前任の担当者様が「ここの挨拶は、奈良さんの言葉で、自由に入れていいですよ」と、
私を信頼して託してくださった大切な空白の一行です。
それ以来私は、ステージの幕が開く最初の一声に、その季節の空気感や、
その日その場所だからこそ生まれる「生きた言葉」を乗せてお届けすることを、
何よりも大切にしてまいりました。
■ 「伝わる話し方」に必要なのは、完璧な原稿ではなく「空白」
ビジネスやスピーチの現場において、「上手く話さなければいけない」「間違えてはいけない」と思うがあまり、
一言一句すべてを書き込んだ完璧な原稿を用意される方は少なくありません。
しかし、原稿をそのまま「読み上げる」だけでは、言葉に血が通わず、聞き手の心に届かないことがあります。
なぜなら、話し手が「手元の文字」に意識を向けている時、
聞き手とのコミュニケーションのキャパシティ(空間)が閉じてしまうからです。
プロの現場でも、最も大切にされるのは「空白(余白)」です。
ベースとなる正確な台本(インフラ)はしっかりと準備した上で、あえて言葉の余白を残しておく。
そして、当日の会場の温度感、お客様の表情、その瞬間の空気の揺らぎを感じ取りながら、
その場に最適な言葉をリアルタイムで紡ぎ出していく。
これこそが、相手の心を動かし、深い共感を生むための「話し方の極意」です。
■ 変化を恐れず、その瞬間の空気感を言葉に乗せる
私がステージで紡ぐ季節の挨拶を、客席のお客様がしっかりと耳を傾け、受け止めてくださっていたことは、アナウンサーとしてこれ以上ない喜びであり、前任の方から受け継いだ「空白のバトン」の重みを再確認する瞬間でもありました。
これはビジネスのプレゼンテーションや、社内での重要なスピーチでも全く同じことが言えます。
準備した正論をただ並べるのではなく、目の前にいる「人」をしっかりと見つめ、その瞬間に最も響く言葉をチョイスする余裕(余白)を持つこと。
皆さまも大切な場面で話される際は、ぜひ手元の原稿から少し目を離し、目の前の空間にいる方々と「言葉のキャッチボール」を楽しむような、素敵な余白を作ってみてはいかがでしょうか。
奈良のりえによるスピーチレッスンは、企業のリーダー層向けのスピーチトレーニングや、個人の魅力を最大限に引き出すコミュニケーション研修を行っております。単なるマニュアルにとどまらない「心が動く話し方」を、ぜひ一緒に身につけてみませんか。

