『魔法の衣装』
『魔法の衣装』
日曜日の朝も読んでくださり、ありがとうございます。
昨日はコンサートの司会を務めました。 出向く前の衣装選びは、私にとって大切な「場への作法」です。 春の訪れに合わせ、心弾むようなポップな色を手に取り、会場へと向かいました。
本番前、アーティストに関連する美術館の個展に足を運んだとき、私の心に小さな衝撃が走りました。そこに展示されていたのは、魂そのものを注ぎ込んだような、重厚で深淵な世界観。
「私の選んだ衣装は、この場の空気と調和しているだろうか」
会場に到着し、主役のアーティストにお会いした瞬間、その不安は確信に変わりました。完全にチョイスを間違えてしまった、と。(そのため、リハーサルの際は少しでも違和感を消したくて、ジャケットを脱いで臨みました)
幸い時間に余裕があったため、土地勘のない街へ飛び出しました。 「場に溶け込み、世界観を支える色」を探して。 ショッピングセンターで見つけたのは、一着の紺色のジャケット。 価格は2,600円。
司会者の席は後方で、お客様からはほとんど見えません。 しかし、「見えないから何でもいい」わけではないのです。 重厚な魂の叫びや、出演者が放つ圧倒的な熱量。それらを受け止め、スムーズな進行を紡ぎ出す役割の人間が、場にそぐわない軽やかな色を纏っていては、その場の空気を壊してしまう。
大切なのは、価格ではありません。 その場が求める「色」と「温度」に、自分の心と外見を調和させること。 たとえ暗闇に隠れて誰の目にも留まらなくても、それがプロとしての意地であり、私の信じる「真摯さ」です。
2,600円のジャケットは、私の慢心を戒めてくれた『魔法の衣装』となりました。 自分を飾るためではなく、場を敬い、利他を尽くすための選択。 私にとって、一生忘れられない大切な一着となりました。

※写真は世界観を象徴するような個展のインスタレーション
